秘密

  思春期の頃に。
  おこづかいで素敵なノートを買って。
  そのノートに、読んだ本やマンガから気に入った言葉を書き写した。時々は歌の歌詞。恥ずかし過ぎて、家族に見つからないように隠し場所も決めていた。
  日記ではなく、純粋に抜粋だけ。
  ただ自分なりに工夫加工した。余白のバランスを考えたり、筆ペンを使ってみたり、色鉛筆を使ってみたり、日付けを入れてみたり。
  順にページをめくるのではなく「この辺で」好きなページから始めて、好きなページで終わるのです。
  ハサミを使ってみたり、ノートを手でちぎったり。
  1日の作業ではなく、気分がノッた時に存分にやる。日々の積み重ねとして。
  …思春期ですな、、、

  …思春期なので、部活が辛かったり片思いしたりすると気がそれてやめてしまう。
  犬が宝物の骨を庭に隠して隠したことを忘れてしまうように、そのまま忘れてしまう。
  
  …そしてある時、そのノートを自分で発掘して、赤面する^_^
  「、、なんて子供っぽいことで感動しちゃってるんだろう、アホだなこいつ」
  もっと心に刺さる言葉を探して、さらにノートに言葉を書き写す。

  恥ずかしい奴、、、



  丁寧に、自分の手で書き留めることで、その感動を手の届く範囲に置こうとした。
  素敵なノートを開けば、読んで感動したことが生々しく証として再現されるような気がした。
  とても素晴らしく大切な作業のように思えた。

  本やマンガや歌の世界が、ツクリモノだとわかっていても、嘘のような気がしなかった。現実世界の方が嘘で、言葉の方が本当な気がした。
  

  社会に出て、もっと辛い現実や不幸が自分の身に起こっても、現実逃避の材料にしようとも思わなかった。
  シンデレラストーリーや桃太郎的勧善懲悪ではなく、矛盾に苦しむような複雑さばかり、摂理ばかり、ただ美しいものばかりが気になった。
  自分にはわからないから

  そして、忙しい生活の中で。犬が宝物の骨をなくすように忘れていった

  
  今はもう、そんなノートは手元にない。
  真夜中に友人に熱い手紙を書くこともなくなった(恥ずかしい奴…)

  それは私の秘密だった


  私だけの世界で、私にとっての美しい世界で、私だけが憶えていればいいものだった。

  
  どんなに現実世界が退屈でつまらなくても。
  どんなに現実世界が過酷で厳しいものであっても。
  どんな風に人から見られ、認められなくても、
  ……感動できる自分でありたかった


  何年か前にすっかり落ち込んで、どうやって(笑う)のかわからなくなったことがある。
  欲しいものもわからなくなって、行きたい所もわからなくなって、食べたいものもわからなくなって、すっかり無気力になった。
  自信もなくなってしまった。好きなものも嫌いなものもわからなくなった。無関心になった。

  今だって自信なんかないけど、存在理由もわからない程に自分が取るに足らない存在だった。

  
  ☆

  自分を許すことから始めなければいけないのだろう。
  ダメな自分、恥ずかしい自分、子供っぽい自分。

  私には秘密がある

  
  「現実逃避」といわれようと構わない。

  毎日は冒険でもないし、素敵なことばかりではない。
  とてもとてもとてもとてもとても辛い事があったら盛大に盛大に盛大に現実逃避しようと思う。
  
  

  そういう風にしか、自分の世界は広がらないと思う。
  
 

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指の先まで暖かい。

  昨日の夜は寒かった。
  今日の朝も寒かった。

  ついこないだまで半袖で「暑い…」って言っていたのに、カーディガン着ちゃってます。日中は場所によっては暑いのかなぁ。陽のあたらない廊下は寒いです。

  気づけば10月だし。

  布団に入って、手足がポカポカとして、ぬくぬくと暖かく眠れるのは、非常に幸せなことだと思います。

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  すでに幼稚園児の間でインフルエンザが流行っているそうな。
  まだ予防注射受けていないから、かかりやすいのだろう。早いよ。

  蚊や毒蜘蛛や蛇やマダニもいるから、気をつけよう(…どうやって??)

  あと熊が出てるから山に入る時は気をつけないと…。

  体調を崩しがちな季節の変わり目。
  
  私は眠るのが下手。3時間寝た後、ぱっちりと目が醒めてしまってうだうだしたりする。そういう時は、起きて活動を始めた方が良いのだろうか。うーん、でも。そんな事したら風邪ひきそうだ、、、

  …ちゃんと眠ろう、ちゃんと眠れば何もかもうまくいくだろう、とスーパーポジティブに考えて、眠ることにする


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  緑色のドングリ。

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  なんとなくコズミック^_^

  

男らしさについて。

  最近、たて続けに穂村弘のエッセイを読んで爆笑しているのですが、、、ぷぷ…^_^

  気になった点がひとつ。
  彼は「男らしさ」についてよく考えている。
  ふーん。「男らしさ」、、
  それはもう死語でしょう!


  ☆

  穂村さんはよく「自分は男らしくない」「自分が女だったら、こんな恋人は嫌だ」と卑下していた。
  うーん、、

  例えば。
  彼女が雪道で足を滑らせたら、支えてあげる。支えきれなくても一緒に転んであげる。そういうのが「男らしさ」……穂村さんはその瞬間、咄嗟につないでいた彼女の手を振り払ってしまった。結果彼女だけが転んだ。

  例えば。
  夜道で屋台が並んでいる。彼女は「わー、いい雰囲気。入ってみたーい」と言い、自分も入ってみたいけど入らずファミリーレストランに入る。そしてうじうじ考える。……穂村さんはカウンター席が苦手。どうやって注文したらいいか、隣の人と自分の彼女が盛り上がってしまったらどうしたらいいか、わからなくなってしまうという。

  例えば。
  友人と店に入る。友人は店の正面に飾ってあったアロハシャツを「お、コレいいな」とサッととり、すぐ会計する。……穂村さんもそのシャツを「お、コレいいな」と思うけど、すぐに会計はしない。色違いを見たり、サイズを見たり、店の奥に自分の気に入るような商品が無いか確認してから、会計する。鏡に向かって、商品を胸にあてて似合うか確認する。

  

  ……なるほどね^_^
  言われてみれば、それは「男らしさ」なのかもしれない。
  
  ちまちましないでバサーッと決める、そんな感じ??

  華奢な女の子を守る勇敢な男の子、そんな感じ??

  
  女の子的に「わ、頼れるー」とときめくだろうか??

  そーでもない。

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  レストランで。
  隣の席のカップルの注文しているの聞いて「うぇ」と思ったことがある。…肉ばっか大量注文、、、。そんなに食べれないだろー、というような。
  残してもよい、と思っているのかもしれない。
  食べれない女性もいるからなぁ…。食べたいのは男性、支払いは男性だとしても。それはないよって思うようなラインナップだった。何をどんな風に注文するかというのは、結構ポイントだと思う。
  …野菜をぉぉお……。ルフィだって野菜ももっと食べると思うよ?

  肉食系、草食系、と言われるようになってから長いけれども。
  
  
  
  別に。
  私が躓いたり滑ったりしても、転ばないように支えてくれたら嬉しいけど、手を払ってもいい。
  おでん屋台が苦手なら、行かなくてもいい。
  アロハシャツの色違いやサイズを吟味してもよいと思う。
  少食でもいいよ。ガツガツモリモリ食べなくてもいいよ。

  

  先程「ルフィ」ってつい書いてしまったけど「ONE PIECE」という少年マンガの主人公です。

  他にも男らしいキャラクターとして「ゾロ」「サンジ」なんてのもいる。
  脇役には明らかに、松田優作(青雉)、菅原文太赤犬)、田中邦衛(黄猿)、勝新太郎(藤虎)という男らしい面々を揃えている。
  
  ONE PIECE作者の尾田栄一郎さんも「心意気」というのをすごく大切にしていると思うのですけど、、、「男気」という言葉は出てこない。
  女性キャラも強いしかっこいいもんね。「心意気」に関して全く性差ないです。

  そんでもって。ルフィゾロサンジは作中、それほど女性キャラにモテマセン。もちろん読者の間での人気投票では常に上位ですけど。
  
  見せ場はあくまで「心意気」の方なので。
  強い彼等より強くないキャラクター達の方が見せ場は盛り上がります。仲間の為にどうするか?逃げないこと、黙って耐えること、責任と誇りを持つこと、そういう名場面がたくさん出てきます。
  「こういう自分になりたい」というのはキャラクターそれぞれにある。少年マンガなので「強くなりたい」というのはもちろん。「海賊王になりたい」「世界一の剣豪になりたい」「お金もちになりたい」もっと知りたい、もっと勉強したい、もっと良い食材で料理したい、、、…こういう自分に対する「夢」やそれに付随する「努力」こそ忘れないでほしいから、それがどんな「夢」であっても、キラキラしくマンガの中で物語になるのだろうなと思います。
   魅力的な人って、別次元。人気者になりたいとか、モテたいとか、そういう発想が無さそう。

  
  「男らしさ」の話に戻ると。
  逆にゾロの男らしさは前時代的ですね。マンガではなく実際にこういう人がいたら……、全く嫌いではなく、むしろ個人的には好きですけど、決して、モテナイでしょう、、、

  
  そう。
  ここまで書いて確信したけど、「男らしさ」イコール「モテる」じゃないですね。穂村さん、間違ってる。


  友人男性が言ってました「モテるためには努力が必要」

  マメであること、容姿に気をつかうこと、敏感であること、繊細であること、、、つまりそういうのがモテる。

  つまり「つきあいやすい」ってこと。

  つきあいにくい「男らしさ」とは…
  無愛想、荒々しさ、豪快、ひたむき、体力、率直、広さ、、、


  「モテ」とは逆ベクトルだけれども、こういうことをサラリとされると、妙にかっこいいです。人間としてね。

  努力ではなく身につけているもの、つまり人間味、つまり心意気なのかと。
  せせこまとかっこつけても、大事なのはハートですね。心が無ければ言葉も響かない。

  …だからと言って。
  やる気満々の熱い人がモテる訳でもないですよ?
  
  松岡修造がモテますか??(私は好きです)

  そう。だから。
  結果、男らしさのカケラのない人でもモテるのです。つきあいやすいから。

  いや別に。モテなくても良いだろう。

  そんなにモテたい??

  そして海外でも、日本的「男らしさ」って通用するのかな??と疑問。

  ジェントルマンらしくレディファーストしたりエスコートしたりはあるだろう。
  日本人がパッと思い描くような「男らしさ」規範みたいなモノって海外でもあるのだろうか。

  性差や、性差による社会的役割の少ない地域では「男らしさ」みたいなモノってどんどん曖昧になっていくだろう。また、生まれた時から「男」として生きていく地域や文化ももちろんあるから、そういう地域ではセクシーか否か分かつ重要なポイントになるだろう。
  
  日本では「男らしさ」は「モテ」や「 セクシーさ」にも直結していないと思う。「男が惚れる男らしさ」ったら任侠くさくて、スジを通すとか、ケジメとか、人情とか、サッパリしているとか、、、もちろん「強い」前提。
  このセンス。
  どえらくユニークな価値観なのではないか??


  ☆

  結論。

  「女らしさ」って曖昧だよなー、と思っていたけど。
  穂村さんのエッセイを読んで「男らしさ」って似合う人と似合わない人がいるから、絶対に追ってはダメだな、と結論した。
  (ちょっと違う気もするけど、キムタクの真似してもキムタクにはなれない、とか?そんな感じ??)

  女の人は多分の努力で「女らしさ」を追えるけれど、
  男の人は「男らしさ」を追った時点で「男らしくない」。漫然とやるしかない。
  しかも極めたところでモテナイ。
  (女の人は頑張り続けたらモテるだろう)

  だから穂村さんは一周回ってモテると思うし、
  尾田栄一郎の「男らしさ」も一周回ってモテると思う。

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散歩

  
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  私は旅に出るけれど

  貴方も笑っていてほしい

  私はちゃんと笑っていたい
  (泣くことは簡単)

  貴方は泣いてもいい

  私はきっと思い出す

  貴方のいた風景や
  貴方が好きだった唄を

  ふとした時に
  

鬼の目にも涙。

  吉備サービスエリアにて。
  桃太郎のオブジェが目を惹きました。
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  岡山の観光土産物屋にも桃太郎はいるけれど、私的には桃太郎より「鬼」が好きです。

  正義の味方より悪役に個性を感じ惹かれるように。「鬼」は「鬼」なりの理由がある。
  幸せで強い主役より、理不尽に責められる脇役の不幸が気になる。

  「鬼」は色々な民話に出てくるけれど。フィクションにしてもノンフィクションにしても、民話の生まれる未然の日常の中で「少し変わった人」をモデルにしている筈だ。少数派の醜い異人たちが、物語の中で「鬼」に変容したのだろう。
  外国人や障がい者だったのかもしれない。または特殊な能力があった人なのかもしれない。あるいは単なる嫌われ者だったのかもしれない。
  
  児童文学「泣いた赤鬼」というのがある。
  心優しい鬼たちだっているだろう。
  この物語に感動する人や、忘れずにずっといる人も多いと思う。
  赤鬼のために青鬼が自ら進んで嫌な役割を負ったように。「鬼」役の犠牲の上に、桃太郎たちの幸福はあるのだろう。
  
  鬼のオブジェを見かける度に、怖そうな顔であればあるほど、虐められてる子供を連想する。

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  鬼にも心があるのだよ、鬼だって泣くよ、と言いたい。
  


狩人たち。


  海の近くの山に登ろう、と思い立ち。串山遊歩道へ。
  、、、そこは「山」ではなくて「遊歩道」だった。残念。

  道は広く、階段もちゃんと整備されていて非常に歩きやすい。
  休憩場に屋根付きベンチやらタバコの吸殻入れやら、、岩場には柵もある。結構な割合で芝も植えられている。うーん、小学生の遠足には向いているだろう。
  「ゴミは持ち帰る」を教えなきゃいけないだろうに、、、。吸殻入れは要らないだろう。無闇に公園のように整備してしまうと管理(掃除)しなければいけない。しなきゃいいのに。
  そうか、遊歩道ってこういうことか。

  私はザクザクの芝よりも、ふかふかな腐葉土の方が好きだな^_^

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  海にはヨットが浮かんでいた。

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  道にオブジェが並ぶ。
  88箇所にそれぞれ違う石を置いてある。
  3枚めは(顔に見える)ので写真してみた。

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  終わりかけの花。良い匂いがしました。

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  赤くて綺麗な蟹がいた。可愛かった^_^

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  派手な虫が飛んでた。このカラーセンス、オシャレですな。。。
  信じてもらえないかもしれないけど、(コバルトブルーのハエ)がいました。げげ!と思ったけど、綺麗なような、、、でもやっぱりヤダ。ハエはハエだ。

  ……そういえばカラフルなモスラも写真に撮りました。


















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  お尻にうんこがついてる。
  立派な蝶々になってください。

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  水色のトンボ。
  このトンボは羽が透明でふわふわと飛ぶ種類みたいで。見つけると、私が喜びます。飛んでる姿を見ると好きになっちゃう虫って、結構あるなぁ。
  このトンボを見つける度に(なんか妖精っぽい、)と喜ぶのです。
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  本当に虫って種類も豊富で沢山いる。
  トンボが田んぼに嘘みたいに飛んでいるので、漠然と(トンボが1番多いだろうな)と思っていたけど。(蝶々と蛾を合わせたら、トンボ超えるかもな。バッタも相当いるけど、、。ナナフシって、バッタの一種なのかな)と、階段を降りる。

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  阿知須のきららドーム(左)と周防大橋(右)
  手前(下)ではエビの養殖をしているらしい。
  
  やっぱり海は気持ちいいなー^_^
  クルッと海沿いをまわって帰宅した。
  自転車やバイクで釣りに向かう人もいて、かなり長閑な雰囲気だ。もちろん軽トラで釣りしている人も。
  趣味の釣り人もいるだろうけど、夕飯のおかずを稼ぎに来ている人もいるのだろう。
  生活感あるなぁ。狩人だなぁ。かっこいいなぁ。

夫婦漫才。


  お彼岸だったので、岡山へ行った。
  墓は津山にある。

  ついでにみっちゃんに会いに行く。みっちゃんは働き者だ。だけど、いつも一緒だったかえさんがいない。入院、検査を繰り返し、介護施設に入った。

  みっちゃんの連れ合い、かえさんは去年の秋にガンで倒れた。目の後ろにできた悪性腫瘍は手術で完全に除去できる種類のものではなく、必ず半身不随や言語障害といった重い後遺症を残すものだった。専門の医者同士の協議の末、手術はしないこととなった。かえさんの場合は、それ以上腫瘍が大きくならないように放射線の治療をするけれど、抗がん剤治療はしない。
  
  かえさんよりもみっちゃんの方が参ってしまっている、と風の噂にきいていた。
  食事や洗濯は大丈夫だろうか?
  憎まれ口をききながら、二人仲良く働いていたもんな。

  親戚で集ってみっちゃんに会いに行くとすぐ、みっちゃんの提案でかえさんの見舞いに行くことになった。それ程近しくもない私なんかが行っていいのかな、と少し思ったけれど、みっちゃんが見舞ってほしいと言うならそれがいいかな、と思った。

  かえさんは長く話をすると混乱してしまう。昔の話もあまりできない(本人から話しだす場合は除いて)思い出せない場合に混乱してしまうので。とにかく、疲れさせてはいけない。
  腕に点滴の跡が青黒く残っていた。
  身体は半分ほどに小さくなった印象だ。
  足は細くなってしまった。足首だけは靴が履けないほどむくんでいる。
  

  山奥に新しくできたグループホームだった。
  本当に、ものすごく山奥にあった。とても静かな所だった。

  人数分の来客用の椅子が部屋に用意された。
  女性ばかり、かえさんの周りにドッシリと落ちつきおしゃべりを始めた。
  「がんやからな」と淡々と話すかえさん。「昨日は雨だったからな」と話すのと同じテンションだ。終末医療を自覚して、体調が悪くてもそれなりに日々を暮らしていくのって、すごい。働いてチャキチャキしていた人だけに、思うように身体が動かないことや、うまく思い出せないことが不快で不安だと思われる。

  みっちゃんは用意された椅子には座らず、立っていた。
  でもそういえば。去年も一昨年も、みっちゃんは立っていた。立ったまま、タバコを吸っていた。座った姿を見たことがない。

  かえさんはみっちゃんに対する憎まれ口を何回も言った。
  その都度みっちゃんも憎まれ口風に「はっ」と応える。
  「またあんな事言って」と私たちは笑う役割だ。

  「忙しく飛び回ってからに、いっそ、おりゃあせん」みっちゃんが居なくなったら皆困ろうに。人気者でひっぱりだこよ。人気者で働き者だからねー、と親戚総動員でフォロー。
  「男の人はつまらん。いっそ話すことがない」
  
  かえさんは「いっそ、つまらん」と言って甘えている。
  みっちゃんも「いっそ、つまらん」と言って甘えている。

  あんた、ちょっと着せて、と上着をねだる。それでみっちゃんは黙って着せる。

  
  
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  かえさんが倒れたのは、みっちゃんもようやく一休みしようと思っていたタイミングだった。
  少年剣道の指導も退き、米の頼まれごとも減らしていこうと思っていて、山梨の方へ二人で旅行に行こうと計画していたらしい。結婚してから、ハジメテ。富士山見物。
  二人は似た者同士で仲良しだけれど、なんと!お見合い結婚なのだ。

  やりきれない、、、。



  憎まれ口をきかないかえさんなんか、かえさんじゃないみたいで嫌だ。
  それに応えられないみっちゃんなんか、不器用なハードボイルドでとっつきにくい。
  「ふん」「へん」「はっ」と言わない二人なんか、二人じゃないみたいだ。

  一人でイノシシの肉をさばくみっちゃんは寂しい。
  栗拾いはみっちゃんでも、栗の始末は女の仕事だ。
  じばいの大量のカボチャはかえさんの仕事だ。

  
    独特のユーモアと優しさと信頼で、夫婦は成り立っている。ズシンときて、、やりきれない。


  小さい女の子みたいにみっちゃんに甘えるかえさんは幸せそうに見えた


  
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