隣の席の松田さんが、サッと鉛筆たてを机から取り上げ、
おもむろに。
まるでシャボン玉でも吹くかのように
ふーーーーーっと息を吹いた。
少女のようだ…、と一瞬見惚れてしまったけれど。
どうやらソコにゴキブリの子供が付いていたらしい!!!
自分では殺せないけど、自分のトコにはいて欲しくない。仕事できない。という心境からの、咄嗟の行動。
結果。
私のイスに掛けていた、私の防寒用カーディガンにゴキブリジュニアは飛ばされた。
キャーキャーキャーキャー騒いでいる私とは別世界にいて、平然と仕事している松田さんに、私は言った。
「松田さんは自分さえよければそれでいいのですか」
松田さんは答えた「自分さえよければそれでいいんよ」
毅然と答えた松田さんはカッコよかった。
「松田さん、私は。今日、松田さんが私にしたこと、ずっとずっと忘れません」と言った。
…松田さんは「ずっと憶えておきーよ」と応じた。
「私は今までだってずっと自分さえよければいいと思っていたし、これからだってずっと自分さえよければいいんよ」と堂々と答えた。
私はゴキブリジュニアを必死で叩いて、新人営業マン柴田くんに始末してもらった「オレっすか?」「だって」
その日の松田さんの決めゼリフとなった。
「私は自分さえよければそれでいいの」
偽善から遠い位置にいて、逆に付き合いやすい。
例えば「本音とタテマエって、あるじゃないですかー」と私がモゴモゴしていると、「ええいね!やりさん!」(いいからやりなさい、の意)、終わり。
大きな声で言い放つ「人の思うこと、人のことはわからん」
…そう言いながら、人の間で立ち回っているのを、私は知っている。
複雑で微妙な案件は、時間かけて話を聞くし(そういう案件は、そういう訳だから知っておいてね、が大事で。聞くだけで相手はスッカリ落ちつく)
親身にその場では聞いてても、自分と関係ない部分はどんどん忘れていく。話した人からすれば詮無いけれど。
松田さんはお願いするのが上手である。
「ありがとう」と嬉しそうに言う。
お姫様みたいに喜んで受け取る。
すごいすごいと褒めたりはしゃいだりする。
、、、認めてあげたり同情したり、自然にやっている。
☆
いつもの美容師さんにカットしてもらった。
約二ヶ月ぶり。
そのお兄さんは私より年下だけれど二週間に一度の割合で整えるらしい。
「昔は伸びてても気にしなかったですけどね。今はもう、なんかキタナイって思っちゃうんですよね、自分が。男ですしねオジサンですしね」
若いとねー、確かに汚くしててもキタナイ印象にならないですよねー
「どんな風に人から見られるかって、あんま考えないなぁー」
…と私が言ったら、お兄さん、ちょっとピクッとした。
「あ、でも。もう若くないからダメですよね。人の目も気にしないとね^_^」とすかさず同意「モサモサするからショートにしちゃおっかなー」
お兄さんは私がめんどくさい星人であることを、しっかりと見抜いている。
「気にしてくれ、、、」と思っているに違いないけど、前回よりもすいて軽くしたボブショートにしてくれた。