「さらば冬のかもめ」をみた。

 原題はthe last detail

ジャック・ニコルソン主演の70年代のアメリカ映画。


 ネタバレあり。


 ベテラン水兵のジャック・ニコルソンが、もう1人の相棒と、8年の服役が決まっている少年兵を監獄まで護送する話。少年兵は不器用で純朴、内気で自己主張ができない。言い返したり怒ったりできないために、無闇に重い刑に処されてしまった。

 ジャックと相棒はさっさと仕事を済ませてしまうつもりであったが、護送中、少年兵があまりに世間知らずなのでいろいろと楽しみを教えてやる。そのやりとりがあまりにもリアルで、ドキドキしながら映画を鑑賞した。


 少年兵はアルコールも飲んだことがない。女の子とつきあったこともない。ましてや、レストランで注文したものが注文通りに来なくてもウェイターに文句を言うこともできない。お祈りまでしている。

 ジャック・ニコルソンはいつも通りのジャック・ニコルソンで下品で粗野で型破りである。

 金に酒に賭けに女。あまりにも典型的な少年の成長物語だが、なんだかとってもありそうな話だと感じた。


 どのような点が「ありそう」かと言えば、少年の表情なのである。

初めはおどおどして無表情だったのに、次第に ジャックに話しかけられて嬉しそうな顔に変化してゆく。ジャックのことをすごい‼おもしろい‼と認めている顔をする。無邪気にあんたのこと好きだと言う。悪いことして「どうだ俺」という顔をする。小さい男の子が、年長の男の子についてまわっている印象なのである。

 護送の数日間、少年兵は今までないくらいに幸せだったろう。笑うことも怒ることもなかった彼は、笑うことと怒ることを覚えたのだ。まさに覚えるという感じだ。無欲であれば、寂しいと思うことも辛いと思うこともなかったであろう。自分の意見は持たず、仕方ないと受け入れ、何故と問わない。監獄に8年入る直前に、生き方に目覚めてしまうなんて残酷な物語だ。

 残酷と知りつつ、ジャックたちは旅を続ける。


 私は映画の結末が怖かった。この無邪気な少年兵が逃げ出すことも戦うこともできず、自殺してしまうのではないかと想像して。(自殺はしなかった)

 子どもが大人になるのは、やはり何かのキッカケが必要なのだと思う。だんだん成長するなんてことはない。勇気を出して何かを乗りこえる、そのキッカケを迂回したり周りの者か取り除いてはいけないのだ。キッカケをなくしてしまったら、大人ぶるしか方法はなくなってしまう。カッコつけたり、さめている態度をとったり。それが高じて簡単に諦めるようになる。誰かのせいにするようになる。ただ待っているだけになる。乗り越え方を覚えることができなくなってしまう。


 ジャックは今自分が彼にしてやれることをしてやった。年長者として若者に同情したのだ。輝かしい若い時代を監獄で過ごす者に、優しくしたのだ。そっけない態度だが、彼が迷っているのもわかるし、背中でがんばれと言っている気がする。

 監獄に引き渡す時、少年兵はジャックたちを見ない。対照的にジャックたちは少年兵の背中をずっと見ている。扉が閉ざされても、扉を見ている。別れの言葉などは一切ない。


 泣かせのポイントを決して作らない地味さがまた切ない。

 派手に演技などしない。

 ベテラン水兵が通りを喋りながら歩き去っていくのです。テンポよく、がんがん歩いていく。予定など話しながら。

 地味に終わったからこそ、私は何故だか救われた。自殺も涙も言葉もない。そんなものだろう。

 


 なんだかなぁ。

 親の世代が私たちの世代に伝えたい気持ちというか。ムズムズするような切なさだ。

 成長するということは、苦さもある。どのように成長する若者の補佐をするか、自分で乗り越えるのを見守るか、難しいものだ。

 この映画をみて感じたことは、逆上がりの練習をする男の子を脇でアドバイスするような切なさ。少年のもどかしさもわかるし、脇で補佐する者のもどかしさもわかる。出来てしまえばなにもかもすっかりわかるのに、できるまでは闇雲に練習するしかない。

でもきっとそんなものだ。