私は甘っちょろい人間なので、最悪の事態を想定しない、というか、想定できない。
「まさかそんなことは…」と思いながら、そんな事態に陥るのです。
楽観的といえばそれまでだし、おめでたい人生、…挫折、失敗、後悔、多々あります。
いやいや、そんな泣き言なんですけど、やはりぽたぽたと涙が止まりません。
茶色の猫は、ガンでした。
ここ10日ばかり、急に元気がなくなって心配はしていたけれど、動物病院の医者に言われても「まさか」と思っているのです。
2センチ大のしこりがあって、腹水がたまっている。腹水を検査したらガン組織が混じっていて、ほぼ間違いなくそのしこりは悪性腫瘍。転移している可能性も大きいし、摘出できない箇所かもしれないということ。
痛みはなさそうなので救いですけど。
この茶色の猫に、今まで私はどれだけ救われたかわかりません。
だんだんと説明をききながら実感がわいてきた。ぽたぽたと涙がこぼれ止まらず、しまいには鼻水も出るし、しゃくりあげるし、看護婦さんもたまらずもらい泣きしてるし、恥ずかしいのですけど、ぐったりとした猫をなでながら、ホント、自分は甘っちょろいなぁーと思うのであります。
帰り道、暗い道を運転しながらぽたぽたと泣き、しゃくりあげ、鼻水をすすり、…こんなに優しくこの猫をなでたことがあったかと思うのです。
実際、私はグイグイとなでていた。
反抗的で凶暴な猫であった。爪をたてて扉も開けるし、食べ物は泥棒猫らしく奪っていくし 、飼い主にも威嚇する鼻息荒い猫であった。それでも私たちは仲良しで、いつも一緒に寝ていたけど。
自分が辛い時には勝手に抱いた。
随分と慰められた。
めっきり大人しくよい子になった茶色の猫、…それらしくなくてひどく悲しい。
般若のごとく怒り狂ってほしい。
なでる手に爪をたててほしい。
せめて死ぬ時、 その時には、
(まだ死なないけど)
優しくなでてやりたい
今までありがとうって
目ヤニで汚れていても、鼻くそがついていても、息が臭くても、ハゲていても、ボサボサの毛並みでも
あなたは私の宝物
足音をいつもきいていた
あたたかった
受け入れがたく、変わりゆくもの