風のない湿った夜
午後8時半。
家の前の溝で、水を飲んだ。
田んぼの肥料やら農薬やら混じってるかもしれないけど、小魚いるしね、ずっと飲んでたし。まぁ、いいか。
ウロウロとしたり、ジッとうずくまったり。
テリトリーの見回りをしているのかなぁ…。
蛍が、2、3匹、飛んだ
あぁ、そうだ。
蛍の時期だ。
☆
懐中電灯を持って、あぜ道を通り、川に向かった。
日中、雨が降ったり止んだりしていたけど、夜は曇りになり霧が出ていた。
水滴がキラキラと光って、一瞬、蛍かなと迷う。草のいたるところに、水滴。これはこれで幻想的。水滴って美しい。
大音量のカエルたち。虫たち。鳥も鳴いてる。闇なのに、騒々しいほど賑やかだ。懐中電灯を当てても、ちっとも逃げないカエルたち。可愛いなぁ。
水をはった田んぼに、月明かりで黒い山が映る。夜の空が映る。これはカメラのレンズには収まらない色。動物の眼の、高性能さを感じる。
甘い匂いがする。それは草の匂い、命の匂い、夜の匂い。この匂いは豊か。人工的に再現はできないけれど、太古からずっと繰り返してきた自然の匂い。死んで朽ちて生まれて恋をする匂い、母の匂い、汗の匂い、雨の匂い。
川の橋から蛍を眺める
あんなに親しげだったカエルの声が遠くなり、空間をゆっくりと舞う蛍は、静かだった
感情過敏になっている私には、夜の親しさや美しさや広大さが慰めとなる。
風のない夜
偏っている自分が、とんとんとならされた。
あぁ、広い
猫からも、甘い匂いが漂ってくる