松たか子、主演。
西川美和監督。2012年。
あらすじ。夫婦で営む小料理屋が火事で焼失。新しく店を持つために結婚詐欺をする話。
板前の阿部サダヲは人が良く、騙していながらも嘘をつくことに傷ついていく。
女心が凄い。
詐欺を始めたきっかけは、阿部サダヲの朝帰りで浮気を嗅ぎつけ問い詰めたところからだ。
終始、松たか子が怖い。
なんで怖いかっていうと、やっぱり阿部サダヲのことが好きだからなんじゃないかなー、と思う。相手の女性をリサーチしたり指示を出したりするけれど、阿部サダヲの「また店を持ちたい」という夢を叶えるために自分を殺しているのではないかと思う。他の女にすり寄っていく自分の旦那を冷静に観察している。
阿部サダヲの濡れ場は多いのだけど、松たか子とは一度もない。松たか子の自慰のシーン、生理で下着を履き替えるシーンなんかはある。この夫婦、セックスレス、もしくは体質的に子供を持てないのではないかと思う。セックスレスでも円満な仲良し夫婦だったのに、、、。
松たか子の中で「たかがお金」「たかが身体の関係」と罪悪感を間引きしていったのかもしれない。「たかが私」自分さえも捨てて、愛する男の夢のためにがんばっているように見えた。
阿部サダヲは上手に女を騙す。嘘は全てが嘘ではなく、本当の気持ちも何割か入り混んでいるのだ。
ウェイトリフティング競技の選手の女性を騙す時、松たか子が「あの子を相手にする貴方があんまり気の毒で可哀想」とこぼしたら「そんな風にうつるお前の世界の方がよっぽど可哀想だ」と本気で言い返していた。騙す相手であっても、心を開いて本当に何割か好きになっている。
物語の後半、阿部サダヲの心は離れてしまう。
嘘をつくのが嫌になったのかもしれない。松たか子が嫌になったのかもしれない。相手の女性が魅力的で何割どころではなく十割好きになってしまったのかもしれない。
板前の包丁は置き去りにされていた。
夢を捨てた男をみて、女は何を思ったか。
終始、松たか子の視線が怖い。
男のために健気につくす安藤玉恵もすごく可愛かった。
……「たかが私」と自分を捨ててしまった松たか子が、自分自身でやりたいこと、自分の夢を持てるといいなぁと思った。
エンドの先にある登場人物の生活を想えるので、この映画は作品として成功している。ハッピーエンドもアンハッピーエンドも、誰かが決めるものではなく、誰かを納得させるものではなく、自分自身のためにある。