「脂肪のかたまり」を読んだ。

  『脂肪のかたまり』モーパッサン岩波文庫。2004年。

  短編小説。
  普仏戦争プロイセンとフランスの戦争、1870年7月開戦、モーパッサンは志願兵として従軍していたらしい)を背景に、人間の醜さを鮮やかに描いている。
  画的に想像できる。とてもあり得そうな話。

  あらすじ。
  ブルジョワ金持ち、貴族、その妻たち、修道女、革命家、娼婦が終戦後のフランスをひとつの馬車に乗り、旅を進めていく話。

  ☆

  自分がツライ状況にある時に、同じようにツライ状況にある人に対して優しくできるだろうか。
  
  戦争など非常事態の時には、人は非情になる場合の方が多いような気がする。

  欲張りは常よりも非情になる。
  
  階級を重んじる人は常よりも差別する。

  宗教家でも利己的な側面を発揮する。

  革命家でも多数の中では正義を語らない。

  弱い者を守らない。強い者がコントロールする。

  多分普段の日常生活でも、耳を塞ぎたくなるような事柄は聞こえてくるし、目を背けたくなるような事柄も起きる。
  耳を塞ぎ、目を背けて、自分が生き延びることに専心することは、悪い事だとは思われていない。
  自分を意識づける理性よりも、遺伝子レベルの本能が、それを正当化するのだと思う。
  同情したり優しくしたりしていては、自分が生存競走で不利になるから。




  もう本当に鮮やかに醜い。
  低俗、醜悪、非道、意地悪、強欲、、

  高潔で優しい人は、歯をくいしばって泣くしかないのかもしれない。泣きながら死ぬのかもしれない。

 (30歳のモーパッサンの出世作。素晴らしい)