尊厳

 灰色の猫が、いよいよ末期的だ。

水分もとれず、トイレも回数が減った。呼吸はゆっくりで、体温は低い。座っていても、ゆらゆらすることがある。瞬きもおかしい、反応が薄いように思う。

  腎臓が悪いのだけど、内臓全体がもう爛れているのだと思う。目ヤニ、ヨダレで汚れていて、毛づくろいもせず、独特の獣臭がする。胃酸が逆流しているのでしょう。口に含んだと思った牛乳を、暫くして吐き出したりする。

 

  時々、悲しげに鳴く。

  (痛い、苦しい、お腹が空いた)という鳴き方ではなくて、(淋しい、淋しい)と鳴いているようだ。澄んだ声で鳴く。

 

  ヨタヨタとふらつきながら歩き、外に出る。

  心配なので付いて歩くけれど、家の中にいる時よりいくらかシャンとしているように見える。やっぱり猫だなぁ。

  

  延命治療はしていないのだけど、ヒトとして私は考える。

  もし猫が言葉を解するなら、尊厳死の選択ができるのなら、猫は尊厳死を選ぶだろうか。

  生きることがもう辛いので、死にたいと言うだろうか。

  まっすぐに歩こうとしてフラつく猫を見ているのは辛いのだけど、安楽死を願わない私は、エゴイストだろうか。

  

  静かに息を続ける猫に、途中でタオルを投げるのは、それはそれで失礼な気がする。

  楽しかった記憶と共に、最後まで自分の意思で生きてほしい。

  静かに声もなく涙を流し続けているのかもしれないと思うと、辛い。

  それにしても誇り高い。

  私だったらそんなに頑張れないかもしれない。

 

  灰色の猫、強いな。

  最後まで私も応援します