一語の深度を辞書は計れない。

 詩は何のためにあるのか。

 詩は今日、満員電車の吊革につかまってそれを読む一人の禿頭の老人のためにある。詩は昨日、劇場の補助椅子に座ってそれを聴いた一人の青年のためにある。また、詩は明日、野原に寝っころがってそれを口ずさむ一人のお下げ髪の少女のためにある。彼らをひととき生かし、そうすることで、彼らを生活し続けさせるためにある。

 人生は日々のもの。人生が日々のものである限り、詩もまた、日々のもの。

 詩は一人の生のために使い捨てられ、完成し得る。詩は詩と、それに感動する一人の人によって始めて完成するものだ。詩自身はそれだけでは何ものでもない。


      さよならは仮のことば

      思い出よりも記憶よりも深く

      ぼくらをむすんでいるものがある

      それは探さなくてもいい信じさえすれば


                  ー谷川俊太郎