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良書「一日の終わりの詩集」を読んだ。

「一日の終わりの詩集」長田弘みすず書房。2000年。

  思わずポエトリー・リーディングしたくなります……というのは大袈裟かもしれない。
  だけど、しっかり自分の声を出して音読したい。
  
 棒読みしても、ハッとするほど揺さぶられそう^_^
  私はバカなので「きゃー!」と叫んで倒れてしまいそう。

  ドキドキします。

「微笑みだけ」という詩。例えばこんな風です^_^

  
風が冷たくなって、空が低くなった。
樹には影がない。雲だけが動いていた。
感覚が鋭くなった。季節が変わったのだ。
街で、友人を見かけたのは、その日だった。
幼い日の表情をのこした、懐かしい友人。
長い間会っていないのに、すぐにわかった。
名を呼ぼうとしたとき、人込みにまぎれて
遠い友人の姿は、すでに消えていた。
そのとき、思いだした。
もうとうに、友人は世を去っていた。
微笑みだけがのこっていた。
キンモクセイの花の匂いがした。
陽がかげってきて、世界が暗くなった。
どこかで、木の枝が折れる音がした。
言葉はとうに意味をもたなくなった。
秋の日の終わり、たましいに
油を差すために、濃いコーヒーをすする。
そのとき気づいた。そこに彼女がいた。
うつくしい長い細い指をもったチェロ弾き。
長い間会っていないのに、すぐにわかった。
声をかけようとして、思いだした。
もうとうに、彼女は世を去っていた。
微笑みだけがのこっていた。
弦の静かな響きがひろがってきた。
微笑みだけ。ほかにはない。
この世にひとが遺せるものは。